『ぺンション荒木』の人々

 サンパウ口にあるこの安宿は旅の強者が集結するところとして有名だ。南米いや世界を一年以上旅してるヤツがほとんどで、風貌がもう野人のようになってしまっているのもいる。

その中でオレが一番ショツクをうけたヤツで、パイス(仮称)というヤツがいる。彼は旅行者でなくここに住みついてしまってるのだ。歳30くらいで日本を離れて8年になるという。以前はペルーのクスコで日本人観光客相手にガイドをやってたという。ブラジルに来てからはプルセイラ(手首にまくミサンガのようなもの)の作り方をマスターし、旅をしながらそれを売ってヒッピーのような生活をしてる不法滞在者だ。文字入りのプルセイラを10分位で作り、なんと1へアル(約100円)で売っている。技術は絶品。ポルトガル語もよく話し、その風貌から謎のぺルー人で通ってる。「ね、いいのあるから1本キメる?」これが親しくなるきっかけだった。

彼の部屋でマッコーニャを吸いながら初めて話をした。この宿は四人部屋のドーミ卜リーになってて、荒木のオヤジがたまに掃除にくるが、ここを宿に生活している人間の部屋はプライバシーを守って?入ってこない。滞在者は自分の部屋のように好き勝手に使ってる。ま、のちにオレも彼と同部屋に住むことになるんだが。ブラジルに来て疑問に思ってたことがあった。[なんでファベーラの人達は働こうとしないんだろう?そしてそういう人達が野放しになってるんだろう?]

彼にぶつけてみた。曰く

「そんなこという必要はない」

「でも一生物乞いばかりして終わっちゃうんでしょう?」

「そんなこという必要はない、ない………ファベーラから出て仕事をしてるヤツだっていっぱいいる。アメ玉ひとつから売り出して、売る楽しみを覚えていって、それを元手に次は何を売ってやろうということになっていくんだから。」そして「そういう人でも、その人にとっては"今"がハッピーなんだから……………まぁ怠け者だとはいえるけど」

とかく相手に干渉し、ああしたらいい、こうしたらいいと余計なおせっかいをかけてる自分に気づかされ、ハッとした。状況が今どうであれ、すべてはその人自身の問題であって、傍はそれをそっと見守っていてやればいいということなのだ。

彼は物売りだけど、いわゆるカメロー(安く仕入れてきては路上で売る人達)とは違い、自分で作って売るアルチサナートといわれるもので、カメローとは一線を画している。パイスはリべルダージのちょっとした有名人で、あまりにも売れるのでカメロー仲間から尊敬のまなざしで見られている。そのカメローも、一般の店舗の前で堂々と居座って法外な安い値で商売するので最近は規制が厳しくなり、一定の場所でしか売れないような、まさに逆差別的状況に追い込まれつつある。警察に立ち退きを強要されたカメローが怒って暴動を起こしたことがあり、新聞に『カメローついに怒る』という見出しで大々的に報道されたことがあった。みんな毎日必死に生きていて、仕事をとられたら終りだというのに。

ところで、パイスの作るプルセイラだが、糸をまく下敷きになるものをリオへ行って拾ってくる。ゴミをしばる紐だという。ちょうどいい幅のものがリオでしか手に入らないらしく、持ち帰ってきてはそれを切って、毎回まとめて5000本位、作りだめしている。糸がいいのか、巻き方がうまいのか、半年経った今でもあまり傷んでない。

「日本の女子高生だったら500円で買うんじゃないかな」

曰く「いや、せいぜい300円。その国で幕らしている人が安いと感じる値段じゃなきゃだめだ。これを売るのには安いということに意味がある。」

スゴイ奴がいたものだ。

それにしても、毎回キメたあとに蝋燭の明りの中で吹いてくれた<コンドルは飛んでいく><OVER THE RAINBOW>の縦笛の音色、忘れられないなぁ……………

 

          

          ↑パイス作成、プルセイラ。怪しげなポストカードも貼ってある!

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